高木早苗 ピアノリサイタルを聴いた
友人の高木早苗さんのピアノリサイタルが
10/22オペラシティリサイタルホールで
開催された。大学の仕事を終え、新幹線で
向かうはずが、調べると開演40分後に
着くらしい・・・。
慌てて急遽自家用車で向かうが、高速の
渋滞にあいながらも開演3分前に着く。
前半にスクリャービン、ドビュッシー、
トゥルヌミール、ラベルが並び、
音色の追求が余儀無くされるプログラム。
後半は、シューベルトの3つのピアノ曲
(即興曲)で、現在の日本人の平均年齢
からすると1世代の間に、ロマン派の音楽が
変容し、前半に演奏された音楽に到達した
ことを密かに驚きながら(後半に気づくの
だが)、かつシューベルトの素朴な和音進行
による音楽の見事さをことさら際立って聴く
ことができた。また、何より不勉強な私に
しては初めて聴くことがかなう曲もあり、
先の読めぬ楽しさを味わいながら・・・。
スクリャービンの二つの即興曲の1曲目は
嬰ヘ長調。調を確認しないまま演奏が
始まってしまい、暫く変ト長調と思って
聴いていた。すぐに変ホ短調(平行調)
にも転調したが、ふとプログラムを
見てみると嬰ヘ長調と書いてある。長調と
短調が目まぐるしく、かつ重く入れ替わる
音楽に深いところで対峙し、音楽の変容と
ともに自らを変容させていることが伺える。
中間部の3連符の打鍵は、ショパン・ノク
ターン13番を彷彿とさせるが、ショパン
への思いや、ここから新しい世界を作り
出してゆくスクリャービンの可能性の源に
触れることができた。2曲目は変ロ短調で、
深淵から立ち上がる煌びやかな音形が
確信を持って演奏され、リサイタルの
初陣を飾った。
以前に聴いた高木さんの見事な「月の光」。
今日のドビュッシーに期待せずにはいられない。
「水の反映」は、ドビュッシーの音楽世界に
封じ込められるような錯覚を覚えるほど、
日頃、捉えどころのない印象のこの曲に
引き込まれていく。織りなされる音の
煌めきはしっかりと音楽の軸にまとわりついて、
一見散文的に見える曲の構造美を感じることが
できた。同じく「沈める寺」は、さらに
神々しさも加わり、改めて日頃大して
興味のわかないドビュッシーの音楽の
素晴らしさを痛感した。
反映括りであろうもう一つの反映、メシアン
「風の中の反映」。風の中で一人立っている
人間が立体的に表現されているが、彼女は
その人間になりきっていた。複雑な和音の
響きから度々、教会旋法的な旋律が浮き
上がって来る。「これは歌だ」と思った。
トゥルヌミールの「三位一体礼賛」はこの日
最も宗教性の強い音楽で、オルガン作品の
作曲家らしい低音の重厚な旋律線、コラール
から立ち上がって来る叙情的な旋律線が
印象深い。そこには宗教的な音楽が持つ
深い苦しみや、喜びに満ちた表情があり、
音楽としての必然性を感じさせながら、
「死」を思わせる最後のD minorのF音で
締めくくる。高木さんの外見や、人となり
からは想像しにくい・・・いや、時折見せる
「祈り」の存在が大地を背に昇天するこの
様相をリアルに描いていた。
ラヴェルの『鏡』より「鐘の谷」。「道化師」
などに比べれば比較的和音分析も容易にでき、
タイトルの持つ様々な要素、例えば低音部が
描きだす深い谷や、高音部の遠くに聞こえる
水音を思わせる色彩豊かな音など具体的に
場面を想像することもできる。「導音」のない
音楽でありながらも様々な「引っかかり」を
設定し、強い感情の入る余地を残している。
演奏は、その「引っかかりを」すべて体現し、
繊細な音の当たりを一つ一つ丁寧に形つくり
ながらスケールの大きな音楽へつなげている
ことが見事であった。
そして後半のシューベルト「即興曲」。
改めてシューベルトの音楽の大きな特徴は
「さすらい人」に特に顕著に見られる同主調
への反復転調だと思い起こさせる。前半の
近現代の調性音楽の礎ともなっている100年も
経たないうちに過ぎ去ってしまうロマン派
音楽の骨格たる音楽を見た。高木さんの
シューベルトはいつも、長、短3和音の
縦の響きが美しく、横のカデンツの定型の
まとまりが意識され、結果、素朴な音楽要素
で作曲されていることの素晴らしさを感じる
ことができる。そして即興曲とは言いながら、
「シンコペーション」など様々なリズム
パターンを駆使し、限られた音楽語法の中で
音楽に対する可能性を広げようとしたことが
伺えるが、何より演奏によってそれが伝わって
来ることは、楽曲に真摯に対峙する奏者の
素晴らしさであろうと思う。最後にこの考え
抜かれた貴重な演奏の「まとまり」をより
多くの人に、とりわけ近現代に取り組む
学習者に直に触れてほしいものだと
願ってやまない。
スポンサーサイト
トラックバック
http://naotsugi.blog79.fc2.com/tb.php/398-f4f6c70e
▲TOP
| HOME |